『田園の詩』NO.118 「水引さん」 (2000.9.19)


 今年の夏は、全国各地で真夏日・熱帯夜の連続記録や最高気温などが気象台を開設し
てから1、2番という所が多く、過去百年間で最高の猛暑だったのではないでしょうか。

 当地でも7月下旬頃から連日の真夏日・熱帯夜でしたが、9月3日に待望の雨が降り、
空気が一変して連続記録もストップしました。いよいよ、20世紀最後で最高の夏も終わ
ろうとしています。

 先日、≪水引さん≫に出会いました。役目が8月末日までと聞いていたので、「ご苦労
さんでした。池の水もまだ少し残っているので、今日で大役も無事終わりですね」と話し
かけたら、「いやいや、今年はまだ暑いし、もう一雨降るまでは止められん」との返事が
返ってきました。

 今回の雨で水も行き渡ったことだし、稲穂も順調に頭を垂れてきたので、≪水引きさん≫
もこれですべての役目を終えることでしょう。

 当地では、数10軒の農家で池を管理して、ほとんどの田圃がその水をたよりにお米を作
ります。毎年、田植えの前に、その年の水の番人が選出されます。その人が≪水引さん≫
で、池の水を出して田圃に引き入れる全権が任されます。


       
    色付き始めた、きれいに並んだ棚田です。水路もありますが、上の田から直接
    下の田に水を引く構造になっていると思います。 
    名水を汲みに行く時、ここを良く通ります。  (09.10.5写)


 もちろん、無料奉仕ではありません。作付け面積に応じてお金が支払われ、その額も
相当なものになるのですが、この水引の役を探すのが大変です。

 雨の多い年に当れば、ほとんど水の管理をしなくて良いこともあります。反対に渇水の
年だと、水争いにまで成りかねなく、その調整に苦労します。お米の生育や収穫に直接
かかわる責任の重い仕事だけに、自分から買って出る人は少ないのです。

 今年は、梅雨末期の雨が降らず、そのまま猛暑の夏に突入したので、お盆の頃には旱魃
状態になりました。水引きさんが水の配分で頭を痛めていた矢先、3日続きの強い夕立が
あり、救われました。そして今回の雨で2度目の救いとなったのです。

 これで水引さんのハラハラは終わりました。しかし、「台風は来ぬか?お米は高く売れ
るのか?」と、農家の心配事はまだまだ続きます。    (住職・筆工)

                     【田園の詩NO.】 【トップページ】